プロジェクトストーリー

総額約200億円ビックプロジェクトを、メインで担当した、広島水道事務所のベテラン土木職にお話を聞きました。
整備工事の概要
01 二期トンネルをなぜ作ることになったのですか?
平成18年8月25日(金)、海田町から呉市二河までの15.6kmの送水隧道の一部において、隧道上部からの岩盤崩落により隧道閉塞が起こり、呉市や江田島市を中心に、最大3万2千世帯が断水しました。
ライフラインである水道で、同じ事故を二度と繰り返さないという強い意志で、関係市町等と送水の在り方ついて協議を重ね、断水の回避や計画的な点検・補修が可能となるよう送水ルートの二条化を計画し、新たに送水トンネル(二期トンネル)を整備することとなりました。

02 二期トンネルはどのような工事なのですか。
二期トンネルは、地中深さ約25m~500mを通る、自然流下式の水路トンネルです。
トンネルは安芸郡海田町を起点に安芸区矢野町、呉市吉浦町を経由し呉市二河峡町までの山間部を通過するルートです。
距離が14.3㎞と長いので、工区を3工区に分割し、安芸郡海田町と呉市吉浦町に、掘削の起点となる立坑を施工しました。海田町は深さ約60m、吉浦町は深さ約25mの立坑を掘削し、海田町の立坑から矢野町方面、吉浦町の立坑から矢野町方面と二河峡町方面の計3方向にトンネル掘削を行いました。
トンネルの掘削は、3基のTBM掘削機(トンネルボーリングマシン)と呼ばれる機械で硬い岩盤を円形に掘削します。トンネル延長が長いので、トンネル内にレールを敷き、電動機関車で掘削した岩盤を運び出します。




03 長いトンネルを掘削するために工夫した点は何ですか。
TBM掘削機による掘削は国内での実績が少ないうえ広島県内で事例がなく、職員のTBM掘削機に対する見識がないことから、二期トンネル推進会議を立ち上げて、トンネル工学の専門家に参加していただき、指導助言を得ながらトンネル工事を推進していきました。
特に、TBM掘削機械は現場に応じた仕様で製作するため、機械の故障による部品製作・交換はかなりの日数を要することになります。
部品製作・交換期間中は、掘削が停止し、工事進捗の遅れにつながることから、トンネル工学の専門家の指導助言に基づき、部品の流用が可能となるよう、3基のTBM掘削機械を同一メーカーにより製作することとし、交換が必要となった場合は施工業者間で部品を融通しながら工事を進める工夫をしました。
04 事業をすすめるにあたって大変だったことは何ですか。
工事を始める前に、設計調査(ボーリング調査)を行い、ある程度地質の状況は分かっていましたが、掘り進めると、硬い岩盤の区間が想定していたよりはるかに長く、なかなか掘り進むことができませんでした。
硬い岩盤は、一般的なコンクリートの強度18N/mm2に対し約10倍の200N/mm2を超える硬さで、計画月進延長110mに対して、40m程度しか進まない月もありました。固い岩盤を掘削するため、掘削に使用するカッターが早く摩耗しカッター交換の回数が多くなったことで、工事の遅れと工事費の増額につながり、対応策の検討や工事契約の見直しなど、リカバリーに大変苦労しました。
地質の状況が大きく変わったため、工事の途中で追加の地質調査(ボーリング調査)を行い、その結果を基に地質を再設定し、全体の事業見直しを行いました。



05 良かったなと思ったことはありますか。
約10年間という長い歳月をかけてトンネルが貫通し、貫通の場に立ち会え感無量の思いです。
事務所職員をはじめ、工事に携わった多くの関係者とその時を共有し、忘れられない思い出となりました。特にこの工事は、平成18年の崩落事故以降、この水を待ち続けた方々の多大な期待を背負っていましたので、喜びもひとしおでした。


06 プロジェクトを振り返ってみてどうでしたか。
これだけの大きな経験を積める工事は限られているため、自身の技術力向上など大きな財産になりました。
この大工事を経験して『何でもできる自信』ができたと感じています。建設中は、(順調に堀り進んでいるときだけですが)、何もない山の地下に、だんだんとトンネルが出来上がっていく様に、日々喜びを感じていました。
まだ運用を開始していませんが、このトンネルにより、末永く住民の方々に、安定して水を送ることができ、地域の暮らしと仕事を支えていけると思っています。
